若冲・琳派・リミックス

国立博物館へ「若冲と江戸絵画」展を見に行く。
まず、二つの誤算があって、
一つ目は若冲の絵が大部分を占める展覧会だと思っていたこと。
実は若冲の作品は全体の半分程度しかなくて、
円山応挙琳派あたりの
アメリカのコレクター、ジョー・プライス氏の
日本画コレクションが沢山来ていたのだった。(館内に入って気づいた)
そして二つ目の誤算は若冲よりもその琳派の方が見応えがあったことである。


若冲
やはり筆致と発色の凄みには圧倒される。
森美術館のオープニングの時に見逃した「鳥獣花木図屏風」
(例の方眼タイル状の絵です。これはぜひ見るべきですよ。発想が完全にデジタルです。)
も見ることができたし、個々の作品はもちろん良かったのだけれど
プライスコレクションの内、見たかったものが殆ど来ていないのでなんとも消化不良。


琳派
まず展示の方法が素晴らしい。
普通の美術館のフラットな照明ではなくてスポットライトのような
指向性の照明をあてていてその明度が時間とともに変化していく。
そうすることで屏風の陰影が移動して絵巻物のようなストーリーが生まれるし
お寺の暗い広間で障子を通した薄明かりで見るような臨場感が出てくる。


琳派というのは描法的にも成り立ちとしても「リミックス」の日本画だと僕は思っている。
カットアップやサンプリングをしていたり、ミニマルに省略していたりと
極めてコンセプチュアルな構図が模索されています。
実は体系としての「琳派」なんてものはなくて、
尾形光琳への私淑、リスペクトをしている画家を「琳派」と呼んでいるだけなのだ。
ということを考えてもまさにリミックスです。
そして現代の日本画よりこの頃までの日本画の方が
デザインやデジタル・アートと親和性が高いという逆説的な面白さ!)
そんな江戸琳派の頂点の酒井抱一、鈴木其一がまとめて見られるのも嬉しい。


抱一
新古今和歌集』のうちの藤原定家
「駒とめて 袖打ちはらふ かげもなし さののわたりの 雪の夕暮」
という和歌(あーこの歌も良い)を絵画化した「佐野渡図屏風」がとても良かった。
金貼りの背景に馬に乗った貴族と従者の絵で積もっている雪は全く描かずに
影も映らないほどの雪の夕暮れの明るさを金地だけで表している。
この絵に蝋燭のように揺らぐ照明があたって
明暗のグラデーションを繰り返すのを見ていると
止まった世界で雪と光だけが静かに降っているようで
ここから受ける印象はまるでダブ/アンビエントの世界ですよ。
http://f.hatena.ne.jp/jakuchu/20060630113021

展示を見終わってエントランスに戻ると土砂降りの夕立ちで
こりゃあ無理だと思ってソファに座って休憩。しながら日記の下書きを書いております。


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雨も小降りになったので外へ出る。
国立博物館の表玄関を出て噴水の脇を通って上野公園を抜けて行く。
そういやこの道をまっすぐに延ばしてゆくと皇居に突き当たるらしいですよ?と
公園の鳩に蘊蓄を垂れながら帰路。ああもう5時だ。雨上がり。蝉時雨。蛍の光