プール・無音・プレーンソング

プールの情景を思い浮かべるときは
人はたくさんいるのになぜだかそこに音はない。
海を思い浮かべるときは確かに波の音まではっきりと想像できるのだけれど
僕の頭の中のプールは無音の水しぶきと光の乱反射を受けながら
ただゆらゆらと水面を歪ませている。


いつか見た写真集にひたすらとプールを俯瞰して撮影したものがあったのだが
やっぱりその写真集に写っているプールもまるで音なんて感じられなくて
それは例えば、Google Earthとか
チャールズ&レイ・イームズの『Powers of Ten』とかで
スケールを世界地図からどんどんクローズアップしていって
建築物まではっきりと分かるくらいまで拡大された映像を
見たときに感じる静謐さ、のようなものを
その写真集のプールも僕の頭の中のプールも宿している。




近所に屋外市民プールがあって、夏のあいだ気が向くとたまに行く。
入場券を買って着替え、実際にプールサイドに出ると
そこには水の音も人の声も相当な音量があって
(プールというのは何故か音がキンキンに響いている。
ヘタなホールより反響音がするのだけれどいったい何に反響しているのだろう?)
僕は現実の夏の現実のプールに引き戻される。


隣接する公園の木々に囲まれたこのプールは
何故か平日の昼間でも大人がいっぱいいて
めいめいに日を浴びたり本を読んだりしている。
すぐそばには中央線の高架が走っていて
ぼーっと日光浴をしているとオレンジの電車や黄色の電車や
田舎に行く特急などが上を走り抜けていくという
なかなか素敵なロケーションが気に入っている
25mの小さなプールは今日もそこそこに人も多くて
小さい子どもにお父さんお母さん日焼けしたガキんちょに若いおねえさん
外人老人正体不明のオトナに若いおねえさん、いや若いおねえさんは
そんなにいなかったか。まあ、色んな人がいる。


タオルを敷いて寝そべって
持ってきた保坂和志の『プレーンソング』をパラパラ読む。
ジリジリと暑くなってきたので少しプールに浸かって仰向けに浮いたりしてすぐ上がってベンチに座って中央線がゴーッて通ってまた『プレーンソング』を読もうとしたけどすぐ面倒臭くなって5ページで止めて目を閉じて少しして目を開けたら中央線がゴーッて通ってトンボが飛んでるのに気づいて顔の汗を拭っていつか見た写真集を思い浮かべてたら中央線がゴーッて通って中央線がゴーッて通った。
夏。