ベルギー2日目

古都ブルージュへ。
ブリュッセル中央駅のホームで鉄道を待っていたら
日本人らしき老夫婦が回りのベルギー人に色々聞いている。
ガイドブックを持っているし、ブルージュに向かう旅行者だろうと思って声をかけてみる。
「何かお困りですか?ブルージュ行きだったらこのホームで大丈夫ですよ」
「ああ、そうですか。ありがとう」
結局ご一緒にブルージュまで向かうことになった。


このSさん夫妻は、ご主人91歳(!)奥さん83歳(!)
このお年にしてふたりだけの個人旅行だという。
しかも、よくよく話を聞いてみると
リトアニアエストニアから欧州に入って
船で北欧、リバプールと回ってブリュッセルに来たのだという。
今日はブリュッセルのホテルに大きい荷物を置いて
ブルージュに1泊するつもりで鉄道で向かうところらしい。
うわ!めちゃめちゃ旅の達人じゃないですか!


「お年も召しているのに個人旅行なんて大変じゃないですか?」
「いや、もうこの年だと歩くのも遅いから
個人じゃないと落ち着いて観光できないのです」
「ご夫婦でずっとお元気で旅行なんていいですね。うらやましい限りです」
「ずうっと沢山働いてきたから、これだけ旅行しても罰はあたらないでしょう。
元気でいられるのも前世で何かいいことでもしたんでしょう」
といってSさんは笑った。


お二人は年に3回ほど1ヵ月くらいかけて旅行をしているそうで
(つまり年の1/4は旅行している)
今まで訪れた国はおよそ80ヵ国!
僕らなんて及びもつかないほどの旅名人であった。


鉄道がホームに着いた。
「あ、あっちの車両の方が空いてるかな」
Sさんは荷物を転がしてスタスタと歩いて行く。
全然歩くの遅くないじゃないですか(笑)。
結局、乗った車両も混んでいて座れなかったのだが
「1時間くらいなら立ってればいいか」と
平然とガイドブックを拡げて今日のホテル探しを始めるSさんには
ただただ感服するしかなかった。


途中駅でさらに人が乗ってきて混雑してきたので
ちょっと心配になって見ていたら
Sさん夫妻はなにやら袋から取り出し
モグモグと食べ始めた。
あたりにはプ〜ンと変わった(日本人には嗅ぎ慣れた)匂いが充満する。
正露丸である。
途端に周囲の人々が鼻をクンクンしだし、
アメリカ人っぽいデカい若者ふたり組みは
匂いに耐えきれなくなったのか車両を移動してしまった。
恐るべし正露丸
旅名人はお腹が痛かったのか、それとも混雑を緩和する高度な作戦だったのか
たぶん後者なのではないかと僕は推測している。


そんなこんなでブルージュに到着。
「私たちはホテルを探しに観光案内所に行くので
良かったら一緒にタクシーで街の中心に行きましょう」と誘われ同乗する。
タクシーの中で今までどんな国に行ったかだとか
これからの旅の予定などを話す。
不思議な感じだ。
僕らの祖父母(もうみんな亡くなってしまった)より年上の人が
こんなにも元気で、好奇心にあふれ、行動している。
「こればかりは性分だからやめられません」と言うSさんを見て
体力と気力さえあれば何歳になっても、どんなことでもできるのだという気がした。


マルクト広場で一緒に写真を取って住所を交換して別れた。
「お体に気をつけて。よいご旅行を!」
ふたりはゴロゴロと荷物を転がし、手を繋いで広場の向こうに消えて行った。
僕らもあんなふうになれるだろうか。


ブルージュの街も素晴しく、運河も鐘楼も広場も
中世のままの姿で残されている。
鐘楼に上るとレンガ色の屋根の間を運河が縫って流れる街の全景が見渡せた。
チョコレート博物館やら運河クルーズやらを楽しんで
ビール飲んでボーっと歩いているとすぐに夕方になってしまう。
夜は運河がライトアップされてとても綺麗らしいのだが
遅くまではいられないので夕暮れの鉄道でブリュッセルに戻る。
今ごろSさん夫妻は夜の運河を楽しんでいるだろう。


短い旅も今日が最終日。
いよいよ明日は帰国の途につく。